楽観論が先行する南鳥島沖レアアース
南鳥島沖の海底からレアアースを含む泥を引き上げる試験に成功したことを受け、新聞各紙やテレビは、国産レアアースへの期待を相次いで伝えている。読売新聞の社説は「国産化へ、弾みになる成果」と評価し、中国依存を下げる朗報だと位置づけた。他紙の報道にも、「資源大国」「中国依存からの脱却」といった前向きな言葉が目立つ。
技術実証として重要な成果であることは疑いない。水深約5600メートルの海底から泥を連続的に引き上げ、採取した泥に中・重希土類が含まれていることを確認した。中・重希土類は電気自動車のモーター、半導体製造装置、医療機器、防衛装備品などに欠かせない。中国が輸出管理を強めるなか、日本が独自の供給源を持とうとする意味は大きい。
ただし、ここで確認されたのは、国産化の成功ではない。深海から泥を引き上げる技術が作動したことと、その泥に有用な成分が含まれていたことだ。商業生産として成り立つかどうかは、まだ判断できない。

「54%」と「数百年分」が示していないもの
今回の報道で見落とされがちなのは、数字の意味である。採取した泥に含まれるレアアースのうち、約54%が中・重希土類だったとされる。これは、泥全体の半分以上がレアアースだったという意味ではない。泥に含まれていたレアアースを100とした場合、そのうち約54が中・重希土類だったという意味である。泥1トンから実際に何キログラムのレアアースが得られるのか、分離・精製を経て製品として使える量がどれだけ残るのかは、まだ明らかでない。
「南鳥島周辺には世界使用量の数百年分がある」という表現にも注意が必要だ。この数字は、海底下に存在すると推計される資源量であり、採掘して利用できる可採埋蔵量ではない。海底にあることと、取り出せることは違う。取り出せることと、採算が合うことも違う。
商業化には採掘後の工程が残る
仮に今後、継続的な揚泥が可能になったとしても、課題はそこから始まる。泥を大量に引き上げ、南鳥島で脱水し、本土へ運び、分離・精製し、産業用の材料に仕上げる必要がある。深海での作業は天候に左右される。今回の試験でも荒天のため、機材を降ろすだけで予定を上回る時間を要した。商業化には、年間に何日操業できるのか、設備の故障や摩耗にどう対応するのか、採掘から精製までにどれだけの費用がかかるのかを示さなければならない。
政府の計画では、2027年に約1カ月の大規模試験を行い、2028年3月までに経済性を含めた総合評価を行うことになっている。計画通りに進んでも、直ちに国産レアアースが市場に出回るわけではない。商業規模の設備投資、許認可、環境評価、分離・精製体制、需要家による品質認証を考えれば、実用化は早くても数年先である。最短で5年後という見方すら、楽観的な前提に立った希望的観測だろう。
足元では中国依存のリスクが続く
一方、足元の供給不安は現在進行形である。日本のレアアース輸入全体が止まっているわけではないが、ジスプロシウム、テルビウム、イットリウムなどの中・重希土類では中国への依存がなお高い。中国から日本向けの輸出が止まった品目もある。国家備蓄や企業在庫の実量を示す公的な資料はなく、何カ月耐えられるかは検証できない。
経済界の警戒感も強い。自動車、電子部品、電機、産業機械では、中国の輸出管理を事業上のリスクとして受け止める企業が増えている。経団連はこれを「経済的威圧」と表現し、国家備蓄の拡充、調達先の分散、分離・精製設備への支援を求めている。企業が「現時点で影響はない」と説明していても、それは在庫や長期契約、個別の輸出許可で当面しのいでいるという意味である場合が多い。将来の供給が保証されたわけではない。
この状況で、南鳥島沖の資源を現在の危機への答えであるかのように語るのは間違いだ。南鳥島の開発は、中長期の供給保険としては重要である。しかし、現在の輸入停滞や企業在庫の減少を直ちに解決するものではない。将来の可能性を強調するほど、対中関係の立て直しや備蓄の透明化といった足元の課題が見えにくくなる。
外交の悪化は産業リスクになる
中国との関係をどう立て直すのかという問題も避けて通れない。日本が調達先を分散し、国内資源の開発を進めることは必要である。しかし、それだけで中国の輸出管理リスクを短期的に消せるわけではない。レアアースは、採掘だけでなく、分離・精製、金属化、磁石製造までの供給網で成り立つ。中国がこの中核部分で大きな影響力を持つ以上、外交関係の悪化は企業の生産計画に直接響く。
高市首相の発言をいま撤回しても、状況が直ちに改善するとは限らない。中国側が輸出管理を外交上の手段として使っている以上、一度生じた不信は簡単には消えない。だが、撤回や修正をしないまま、強い言葉だけを重ねれば、状況はさらに悪くなる。国内向けの政治的発信で、産業界の調達リスクを高めることがあってはならない。その代償を払うのは、企業と労働者だからだ。
南鳥島は即効薬ではなく将来の選択肢
南鳥島沖のレアアース開発は、進めるべき研究開発である。深海資源を扱う技術を持つことは、日本の経済安全保障にとって意味がある。だが、技術実証を「商業化は目前」と見せるべきではない。泥を引き上げたこと、レアアースが含まれていたこと、資源量が大きいと推計されることは、それぞれ重要な事実である。しかし、それらは国産化の実現を意味しない。
いま必要なのは、期待を膨らませることではなく、時間軸を正確に示すことだ。南鳥島は将来の選択肢であり、現在の供給不安への即効薬ではない。政府が語るべきなのは、「国産化への前進」という標語ではない。いつ、どれだけの量を、いくらで、どの品質で供給できるのか。そこが示されない限り、南鳥島沖のレアアースは、期待ではあっても安定供給の根拠にはならない。

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